『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~』の書評

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独立研究者、著作家、パブリックスピーカーの山口周氏が、今日のように複雑で不安定な世界において、論理的・理性的スキルに加えて、いま求められている「美意識」とはなにか、さまざまな事例をともに解き明かす一冊。

・現代における「論理的・理性的スキル」の問題について知りたい
論理や理性に加えて「美意識」を鍛えるべき理由を知りたい
どうすれば「美意識」を鍛えることができるか知りたい

このような方におすすめの書籍です。


書籍の情報


書名:
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~

著者:
山口 周

出版社:
光文社

発売日:
2017/7/20

ページ数:
217ページ

目次:(※開閉ボタンクリックで目次が表示されます)


はじめに

名門美術学校の意外な上顧客忙しい読者のために
1.論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある
2.世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつある
3.システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している
本書における「経営の美意識」の適用範囲
会社を「作品」と考えてみる

第1章 論理的・理性的な情報処理スキルの限界
 「論理」と「理性」では勝てない時代に
 「直感」はいいが「非論理的」はダメ
 「論理」と「理性」に頼る問題点 ①時間
 哲学を鍛えられていた欧州エリート
 「論理」と「理性」に頼る問題点 ②差別化の喪失
 ミンツバーグによるMBA教育批判
 アカウンタビリティの格差
 アカウンタビリティと「天才の否定」
 クックパッド紛争は「アート」と「サイエンス」の戦いだった
 アカウンタビリティは「無責任の無限連鎖」
 アートが主導し、サイエンスとクラフトが脇を固める
 経営トップがアートの担い手
 千利休は最初のチーフクリエイティブオフィサー
 アートのガバナンス
 経営者はなぜデザイナーに相談するのか?
 サイエンス型が強くなるとコンプライアンス違反のリスクが高まる
 エキスパートは「美意識」に頼る
 ビジョンと美意識
 サイエンス偏重は一種の過剰反応

第2章 巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
 全てのビジネスはファッションビジネス化する
 自己実現的便益のレッドオーシャン
 なぜマッキンゼーはデザイン会社を買収したのか?
 デザイン思考 「巨大な自己実現市場の登場」は日本にとっての好機
 イノベーションにはストーリーが必要
 デザインとテクノロジーはコピーできる

第3章 システムの変化が早すぎる世界
 システムの変化にルールが追いつかない世界
 なぜ繰り返し問題を起こすのか?
 実定法主義と自然法主義
 後出しジャンケン
 「邪悪にならない」
 「我が信条」
 エリートを犯罪から守るための「美意識」
 エンロンのジェフリー・スキリング
 日本文化における「罪と恥」
 ある会社の常識は、他の会社の非常識

第4章 脳科学と美意識
 ソマティック・マーカー仮説
 意思決定における感情の重要性
 マインドフルネスと美意識
 セルフアウェアネスの向上に重要な部位

第5章 受験エリートと美意識
 「偏差値は高いが美意識は低い」という人たち
 なぜエリートは「オウム的システム」を好むのか?
 システムへの適応力
 コンピテンシーとしての「美意識」を鍛える
 「悪とは、システムを無批判に受け入れること」

第6章 美のモノサシ
 鍵は「基準の内部化」
 主観的な内部のモノサシ
 「美意識」を前面に出して成功したマツダの戦略
 マツダが依拠した「日本的美意識」
 マツダにおける「顧客の声」の位置付け
 「美」のリーダーシップ

第7章 どう「美意識」を鍛えるか?
 世界のエリートは「どうやって」美意識を鍛えているのか?
 「アート」が「サイエンス」を育む
 絵画を見る
 VTSで「見る力」を鍛える
 「見る力」を鍛えるとパターン認識から自由になれる
 パターン認識とイノベーション
 哲学に親しむ
 プロセスとモードからの学び
 知的反逆
 文学を読む
 詩を読む
 レトリック能力と知的活動

おわりに



書籍の紹介


近年、グローバル企業が世界的に著名なアートスクールに幹部候補を送り込んだり、世界の「エリート」が美術館の教育プログラムに参加しているケースが増えています。


これらの傾向は、単に教養を身につけるためではないといいます。


では、世界のエリートはなぜこのような行動を通して「美意識」を鍛えるのでしょうか。



現代のビジネスは「分析・論理・理性」に軸足を置いた経営・意思決定が行われています。


しかし今日のように複雑で不安定な世界において、そのような意思決定では、ビジネスの舵取りをすることは難しい状況となっています。


それには次のような理由があります。


・論理的、理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつあること
・世界中の市場が「自己実現的消費」へと向かいつつあること
・システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生していること


近年、多くの人が論理的な情報処理のスキルを身につけた結果、世界中の市場で「正解のコモディティ化」という問題が発生しています。
正しく論理的・理性的に情報処理をすることは、「他人と同じ正解を出す」ということでもあり、つまり「差別化の消失」を意味しています


そして全地球規模での経済成長が進展しつつあるいま、
精緻なマーケティングスキルを用いて論理的に機能的優位性や価格競争力を形成する能力では戦えない市場となっています。


またシステムの変化に対してルールが事後的に制定されるような、変化の早い経済成長が進展しつつある世界において、
明文化された法律だけを在り所にして判断を行うという考え方は、結果として大きく倫理を踏み外すことになる恐れもあります。



このような複雑で不安定な世界にこそ、次のような、 数値だけでは測れない企業活動の「良さ」「悪さ」を判断するための認識基準が求められているのです。


・従業員や取引先の心を掴み、ワクワクさせるような「ビジョンの美意識」
・道徳や倫理に基づき、自分たちの行動を律するような「行動規範の美意識」
・自社の強みや弱みに整合する、合理的で効果的な「経営戦略の美意識」
・顧客を魅了するコミュニケーションやプロダクト等の「表現の美意識」


そしてこのような「測定できないもの」「必ずしも論理でシロクロつかないもの」にこそ「リーダーの美意識」が問われている。これが筆者の主張です。


本書ではその「美意識」の鍛え方にも言及されています。リーダーのみならず全てのビジネスマンにおすすめの書籍です。



ピックアップ(書籍から抜粋)


「社会彫刻」というコンセプトを提唱し、全ての人はアーティストとしての自覚と美意識を持って社会に関わるべきだ、と主張したのはアーティストのヨーゼフ・ボイスでした。ボイスによれば、私たちは世界という作品の制作に集合的に関わるアーティストの一人であり、であるからこそ、この世界をどのようにしたいかというビジョンを持って、毎日の生活を送るべきだと言うのです。

物事が複雑に絡み合い、しかも予測できないという状況の中で、大きな意思決定を下さなければならない場面では、論理と理性に頼って意思決定をしようとすれば、どうしても「いまは決められない」という袋小路に入り込むことになります。このような問題の処理については、どこかで論理と理性による検討を振り切り、直感と感性、つまり意思決定者の「真・善・美」の感覚に基づく意思決定が必要になります。

「論理と理性」に軸足をおいて経営をすれば、必ず他者と同じ結論に至ることになり、必然的にレッドオーシャンで戦うことにならざるを得ない。かつての日本企業は、このレッドオーシャンを、「スピード」と「コスト」の二つを武器にすることで勝者となった。しかし、昨今では、この二つの強みは失われつつあり、日本企業は、歴史上はじめて、本当の意味での差別化を求められる時期に来ているということです。

なぜ人間に美学とモラルが必要かといえば、一つには意外かもしれませんが、最終的に大変効率がいいからです。「効率がいい」というと語弊があるかもしれませんが、より高いところから、より大局を見て、一本筋が通っていると、大きな意味で効率がいいのです。

高度な意思決定の能力は、はるかに直感的・感性的なものであり、絵画や音楽を「美しいと感じる」のと同じように、私たちは意思決定している のかもしれないということがわかります。

わかりやすいシステムを一種のゲームとして与えられ、それを上手にこなせばどんどん年収も地位も上がっていくというとき、システムに適応し、言うなればハムスターのようにカラカラとシステムの歯車を回している自分を、より高い次元から俯瞰的に眺める。そのようなメタ認知の能力を獲得し、自分の「有り様」について、システム内の評価とは別のモノサシで評価するためにも「美意識」が求められる、ということです。

センスの良い顧客の選好を聞けば、センスの良いデザインができるでしょうし、センスの悪い顧客の選好を聞けばセンスの悪いデザインが出来上がる。できればセンスの良い人たちだけに意見を聞きたいのだけれども、「センスが良い」という判断に、そもそも個人的な美意識が介入しますし、統計的に有意なデータを取るためには一定程度以上のサンプル数が必要になるため、 どうしてもセンスの悪い人たちの選好が交じってしまう。これは、普遍的な顧客主導型のデザインが宿命的に抱えている問題です。

システムの内部にいて、これに最適化しながらも、システムそのものへの懐疑は失わない。そして、システムの有り様に対して発言力や影響力を発揮できるだけの権力を獲得するためにしたたかに動き回りながら、理想的な社会の実現に向けて、システムの改変を試みる。 これが現在のエリートに求められている戦略であり、この戦略を実行するためには、「システムを懐疑的に批判するスキル」としての哲学が欠かせない、ということです。

「偏差値は高いけど美意識は低い」という人に共通しているのが、「文学を読んでいない」という点であることは見過ごしてはいけない何かを示唆している ように思います。

リーダーの仕事が人々を動機づけ、一つの方向に向けて束ねることであるとするならば、 リーダーがやれる仕事というのは徹頭徹尾「コミュニケーション」でしかない、ということになります。となれば、少ない情報量で豊かなイメージを伝達するためのレトリックの根幹をなす「メタファーの技術」を学ぶのは、とても有効だということになり、「優れたメタファー」の宝庫である「詩」を学ぶことは、とても有効なリーダーシップのトレーニングになる、ということです。

実践ポイント


・VTS(Visual Thinking Strategy:対話型鑑賞セミナー)に参加し「見る力」を鍛える
・書籍等を通じて哲学に触れる



おすすめの読書法


みなさんが読書をするときは、紙の本と電子書籍どちらを使っていますか?


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最後までご覧いただきありがとうございました。