『トリガー 人を動かす行動経済学26の切り口』の書評

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HR Design Lab.代表 兼 博報堂コンサルティング 執行役員の楠本和矢氏が、行動経済学の様々な理論をビジネスやマーケティング領域に落とし込むための手順論と、それに基づく様々な参考事例について「実務家の視点」で伝える一冊。

・行動経済学を活用した実務のイメージが湧かない
・行動経済学をビジネスやマーケティング領域の施策検討に繋げたい
・行動経済学を実務に活用した参考事例を知りたい

このような方におすすめの書籍です。


書籍の情報


書名:
トリガー 人を動かす行動経済学26の切り口

著者:
楠本 和矢

出版社:
イースト・プレス社

発売日:
2020/11/7

ページ数:
204ページ

目次:(※開閉ボタンクリックで目次が表示されます)


はじめに

■CHAPTER1 マーケティング戦略と、行動経済学との距離感
 ▼ 通念としての「マーケティング戦略」とは何か
 ▼ 典型的な「非合理的な判断」
  ケース1: 比較対象によって、判断が変わる
  ケース2:「それが何の仲間か?」が重要
  ケース3: 角度を変えると、印象も変わる
  ケース4: 豊富な選択肢があると、逆に買わない
  ケース5: すでに投資しているから、後に引けない
 ▼ 行動経済学は、なぜ使いにくいのか
 ▼ 行動経済学を、マーケティング領域へ
 参考編 各種理論の整理
  1:限られた情報で短絡的に判断してしまう
   バンドワゴン効果/ハロー効果/希少性の法則/ジンクピリチオン効果/
   ザイアンス効果/ウィンザー効果/返報性の原理/確証バイアス/
   一貫性の法則/ヴェブレン効果
  2:得することよりも「損しないこと」を過大に重視してしまう
   損失回避性/保有効果/現状維持バイアス/現在志向バイアス
  3:何が基準になるかで、評価や判断の内容が変わってしまう
   参照点依存性/感応度逓減性/アンカリング効果/プライミング効果/
   サンクコスト効果/エンダウド・プログレス効果
  4:見せ方や並べ方を変えるだけで、判断が変わってしまう
   ポジネガフレーミング/強調フレーミング/単位フレーミング/
   決定回避の法則/極端回避性/おとり効果/デフォルト効果
 COLUMN 01 「ナッジ」について

■CHAPTER2 行動経済学をマーケティングにつなげる 26 の切り口
 ▼ 効率良く「好感認知」をつくるための5つの切り口
  1:ユーザーを広告塔に
  2:それとわかるデザイン
  3:強力パートナーに乗る
  4:社会的トピックに紐付け
  5:ファンから情報発信
 COLUMN 02 クレジットカードに対するホンネ
 ▼ 新たなニーズを創るための7つの切り口
  6:リスクを強制想起
  7:新たな「敵」の紹介
  8:新習慣の創出
  9:いい言い訳の提供
  10:節目需要の創出
  11:ひとまず保有させる
  12:とにかく近くに
 COLUMN 03 ある家電量販店にいた、PCのセールスパーソン
 ▼ 魅力的なものに見せるための5つの切り口
  13:とにかくNo.1
  14:レア感の醸成
  15:優良なる未知のもの
  16:共感醸成ストーリー
  17:第三者レコメンド
 COLUMN 04「ジンクピリチオン効果」の最強事例と思うもの
 ▼ 購入ストレスを低減するための4つの切り口
  18:購入リスクがゼロ
  19:選択肢の絞り込み
  20:面倒ごとの先送り
  21:相対的に選ばせる
 COLUMN 05 マイナンバーの普及率はなぜ低いか
 ▼ 自然に継続させるための5つの切り口
  22:「継続する状態」を最初から
  23:「一定期間の利用」が前提
  24:こまめな達成感
  25:更新タイミング可視化
  26:続けないと損
 COLUMN 06 続けるには、とにかく「宣言」することがベスト

■CHAPTER3 「26 の切り口」を使って、マーケティングアイデアを創出する方法
 ▼ アナロジカル・シンキングとは
 ▼ 「26 の切り口」を起点とした、アナロジカル・シンキングの手順
 ▼ シミュレーション・ワーク
 テーマ 家庭用小型ロボット「ロボミニくん」を購入、継続利用してもらうためのマーケティング施策の検討
  ステップ1: 前提条件の整理
  ステップ2:「顧客価値」の掘り起こし
  ステップ3:「阻害要因」の探索
  ステップ4:「 26 の切り口」を使ったアイデア導出
  ステップ5: アイデアの絞り込みと精緻化

おわり



書籍の紹介


本書は、行動経済学者が手間暇かけて検証した各種理論を、生活者の視点で、できるだけわかりやすくマーケティング施策のアイデアに落とし込む方法論を提示する書籍です。


全体の流れとして、3部構成のうち1部目で、行動経済学の各理論の整理や「実務における行動経済学の使いにくさ」に関する問題提起と「行動経済学を如何にマーケティングの実務に繋げられるか」を示す骨子の提示。2部目で、行動経済学の各理論をマーケティングの実務に繋げる切り口を26点紹介、3部目で、実際に現実に存在しそうなテーマを題材に「2部の26の切り口を起点としたマーケティングアイデアの創出方法」を解説しています。


現代社会において、わたしたち消費者は、 理屈のみではなく感情的・非論理的な判断や選択の上で購買活動を行っています。


類似な商品やサービスで溢れ、基本的な欲求はほとんど満たされているからです。


世間的な評判や難しい選択を避けた判断、抜けきれない習慣などがない人の方が少ないのではないでしょうか。


このような時代だからこそ、人々の心理的、感情的側面に即した分析を通して、 現実の世界にある様々な要因がもたらす、人々の行動パターンの究明を目的とした行動経済学は、事業戦略やマーケティング戦略を考える上でとても重要な視点です。


しかし実際に行動経済学の様々な理論を目にすると、実務への落とし込みのイメージが湧かないと感じる人も少なくないと思います。 その理由として、筆者は仮説として次の3つの阻害要因を挙げています。


・そもそも言葉が難しいから
・体系化されていないから
・検討フレームワークになっていないから


行動経済学の各理論は、マーケティング施策策定のために作られていないため当然とも言えます。


しかし行動経済学の可能性と必要性を感じるからこそ、 如何に学問の各種理論をマーケティング領域に転用していけるか、という思考こそが大切です。


その上で、本書では「行動経済学をマーケティングに繋げる26の切り口」等を活用した アナロジカル・シンキング*を通して、行動経済学をマーケティング施策のアイデアに落とし込む方法論が示されます。


*ある成功事例から、その成功に寄与した「汎用化可能な仕組み」を抽出し、それを検討対象となる得るものに転用する方法を考える思考法


行動経済学の各種理論をどうしたらビジネスやマーケティングの実務に繋げられるか。


このような悩みを少しでも感じたことのある方には特におすすめの書籍です。



ピックアップ(書籍から抜粋)


今や、ほとんど全ての業界が成熟化し、類似の商品やサービスが溢れ、基本的な欲求はほとんど満たされています。そんな時代において、商品/サービスの魅力を、理屈だけでストレートに訴求したとしても、生活者に「欲しい」という感情を生み出すことは難しいでしょう。

理屈だけでは突破できない昨今の成熟化社会において、生活者の「理屈」だけではない判断、つまり感情的、非論理的な判断や選択のメカニズムを説き明かし、それを逆手に取った攻略法、いわば「心のスキ」を突く手法とは、まさに こんな時代における事業戦略やマーケティング戦略を考える上での一つの突破口 になり得るでしょう。

仮にどれだけ立派な理論に基づいた分析検討を行っても、最初から「完全なる正解」を出すことは不可能。結局は、どんな場合でも仮説検証型の進め方をせざるを得ません。

コトラー教授の「戦略的マーケティング・プロセス」には、概念として捨象されて(捨てられて)いるものがあります。そして、それが決定的に重要だったりするのです。それをひと言で言うと「人間的な視点」です。

マーケティングという方法論は、ある時から「学問の一つ」となり、MBAの必須科目にもなりました。学者が教える「学問」になった以上、きちんと説明をつけることができないもの、不安定・不確実なものは当然排除されがちになります。 そのような過程の中で、生活者の心理的、感情的側面という、説明が難しい「不安定なもの」は、学問のフレームから捨象されることになったのかもしれません。

生活者とは、合理的、論理的な判断よりも、もっと別の「論理だけでは説明がつかない非合理的な判断」で行動を決めることが大半です。

調査をしても、生活者の「欲しいもの」「やりたいこと」が見つからない、生活者の「論理性や合理性」だけを拠り所としても手がかりが見つからない、そんな成熟社会におけるマーケティングをいかに考えるべきでしょうか。

行動経済学の、生活者が非合理に判断してしまう可能性を突いた、「あたかも、元々欲しかったような気持ちにさせる」「自然に購入してしまう流れをつくる」というアプローチは、まさにこれからの時代におけるマーケティング戦略策定において、非常に重要な武器となると考えています。

マーケティング戦略とは、分析→戦略→戦術……と直線的に進めるだけではなく、時として前プロセスに戻り再検討するという「行ったり来たり」の中で練度が高まっていくものです。

行動経済学は、これからのマーケティング戦略を考える上で、ますます重要なアプローチになっていくと考える一方、色々な理論が散らかった状態で放置され、そこに非常につなげにくい状態であるように感じます。理論に興味を持ったとしても、どこから手を付けてよいかわからず、結果として途中で断念してしまった……そんな方がかなり多くいるのではないかと思います。

実践ポイント


・本書で紹介されるアナロジカル・シンキングを実践
・リアルな生活者的な目線に基づいた戦略や戦術のプランニングを実施



関連書籍


関連書籍として『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』があります。


データサイエンティストの松本健太郎氏が、世の中の大ヒットや大ブームの裏に隠れる人間の”善と悪”の心理の法則を「マーケティング理論、行動経済学、データサイエンス」を通して解き明かす一冊です。


次の記事でご紹介していますので、よろしければご覧ください。



おすすめの読書法


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最後までご覧いただきありがとうございました。